細川博司×扇田賢×佐藤修幸×松本陽一 前編(7)
銃声のタイミング
- 松本
- さっきの細川さんの、背中を見せるとお客さんが「次もそれがあるかも」って思って積極的に見るっていう論はすごく面白いですね。
- 佐藤
- 面白いですね。何が起こるか分からないですもんね。あと、銃の音、めっちゃデカいじゃないですか。
- 細川
- あれね、デカさだけじゃないんですよ。タイミングなんですよ。
- 佐藤
- へぇ~。
- 細川
- 絶対撃たないだろってタイミングで撃つんで。
- 佐藤
- そっか、そういうことか。
- 細川
- セリフの途中で撃つので……あ~、またこれ言っちゃった……。
- 一同
- (笑)
- 佐藤
- ネタばらし的な?
- 細川
- 普通、銃を撃つ時って、撃つ人でタイミングをとるじゃないですか。音響さんがSE をキーボードでパンって叩く訳ですけど。 こうやってパンっじゃないですか。
僕は、撃たれる人のセリフで 取るんですよ。撃たれる人の「やめてくれ、撃たないでくれ」の「撃たな」で取るんです。
- 佐藤
- へぇ~。面白~い。
- 細川
- それに合わせて撃つ人が
僕、北野武監督の映画が好きなんです。何が好きって、彼の作品も 「なんで撃つねん!」っていうタイミングで撃つんですよ。
要は、きっかけの取り方なんです。油断してるからデカく思うんです。確かにデカめに出してますけど、そんなめちゃめちゃデカくはないです。
合わせる。
- 佐藤
- そうだったんですね~。
- 松本
- 1つ明確なテクニックですよね。音響さんも役者も撃つという生理が入るので、同じ動作をやっても、撃つ人で 取るのと撃たれる人で 取るのでは、絶対にドキドキ感が変わりますよね。
- 細川
- そうなんです。
- 佐藤
- なるほど。めっちゃ面白いな~。
- 扇田
- ロシアンルーレットは「撃つぞ撃つぞ撃つぞ、いつ撃つんだ~?」ですけど、その逆ですよね。
- 佐藤
- 「あ、もう撃っちゃった」みたいな。
- 細川
- 撃たれる人にセリフを最後まで言わせないですもん。何か言いたいことの途中で撃たれる。その方が気持ちが残るから面白いんです。
- 佐藤
- 気持ちが残った方がいいですね。あ~そっか~ 。
- 一同
- (笑)
- 細川
- え、何でそんなに!?
脚本家の想定をかっこよく裏切る
- 扇田
- でもそう考えると、お二方 と僕は結構作り方が違います。
- 松本
- 扇田さんには、僕の脚本を演出してもらったこと があるので、少し分かってるというか、話も聞いたんですけど、全然違いますね。
- 扇田
- なぜかっていうと、僕は演出をやってますけど、劇団公演よりも外部の公演を演出してる回数のほうが圧倒的に多いんですよ。
- 佐藤
- へぇ~。
- 扇田
- 劇団で演出を始めたんですけど、それも初めは外部のプロデュース公演だったのはさっき話しましたよね。
そこから劇団に戻ってきたんですが、外部の公演が忙しくなっちゃって劇団の公演があんまり出来なくなってる時代があって、その間に外部をバーっとやって今に来ているんですよ。
- 佐藤
- じゃあ、発注ありきで演出するみたいな。
- 扇田
- 発注ありきっていうか、脚本を書かないからだと思うんですよ。
- 細川
- うん、羨ましい。
- 一同
- (笑)
- 松本
- その違いは聞いてみたいですよね、脚本を書かない演出家の目線。
- 扇田
- 脚本はこういうところを見せたいんだろうなっていうのを重々分かった上で、裏切りたいっていうのがあるんですよ。
- 細川
- うんうん。
- 佐藤
- へぇ~。
- 扇田
- だったら自分が演出する必要がないよな、って思っちゃって。
- 細川
- うん。
- 佐藤
- オリジナリティが出ないとね。
- 扇田
- この演目の正解は多分脚本・演出をされてる方がやるのが一番かもしれないけど、別の答えもアリじゃない?っていうのを、演出家専門でやってる人はやらないといけないなって思ってて。
正解はあまり出さないように、最低限正解を出さないと物語が成立しない箇所だけにする。
- 松本
- 例えばストーリーの山場とか。
- 扇田
- そうそう。それ以外のところは、「 行っちゃっていいんじゃない?やっちゃおうよ」ってタイプです。
- 佐藤
- 役者に委ねたりしてね。
- 細川
- 脚本を預ける側として、それは賛成です。ただ、かっこよく裏切ってほしいですね。かっこ悪く裏切られると、そっかぁ……、ってなるんで。
- 一同
- (笑)
- 松本
- ありますよね。僕、映画なんですけど、短編を書いて、それはもうかっこ悪く裏切られたことがあるので……。
- 一同
- (笑)
- 松本
- ブログか何かに書いたことがあるんですけど、託す側は託すしかないし、そこで後からネチネチ言うのも嫌じゃないですか。
- 細川
- 嫌ですね。
- 松本
- 僕自身が預かった脚本をガンガン変えるタイプで、それで良くなっただろうという自負があるので、預ける脚本は好きにしていいですという状態で渡すんですよ。
だからこそ、ダメだった時の衝撃が大きいんですよね。
それは現代劇だったんですけどわざと時代劇っぽく見せて、物語の途中で後ろからヘリコプターが出てきて、「あ、現代の話だったんだ」って気付かせる、山奥の若い女性と老人の二人の物語で。
- 佐藤
- おもしろそう!
- 松本
- あっ、こんなに言ったら……作品が限定されちゃうな……。
- 一同
- (笑)
- 松本
- 時代劇っぽく見せて実は現代劇っていうのが大きな軸で、それは映画の監督の最初からの希望だったんです。
古い映画の……東映とか色々とイメージを言われて、全部リサーチしてその通りに書いたんですけど、開始3分ぐらいでどんどん背景に現代の遊具とかが出てきて、全然時代劇になってなくて。
- 扇田・細川
- あはは(笑)。
- 佐藤
- それはやばいっすね。
- 松本
- ヘリは予算的に難しかったですけど、いよいよ中盤で出てきたゲリラ部隊が、まぁ~しょぼくて。もうひどかったんですよ。
- 佐藤
- あはは(笑)。
- 松本
- 脚本のクレジットから外して欲しい!って、本気で思った。
- 佐藤
- まあそうですよね。
- 松本
- 試写会が終わって監督に、「 ありがとうございました~」って言って。
- 一同
- (笑)
- 松本
- もう何も喋れなかったですね。お世辞にも何も言えなかったんで挨拶しかできない。その後親睦会とかあったんですけど、スッと帰りました。
- 細川
- それは帰りますよ。
愛があるプロデューサー
- 佐藤
- 僕は脚本も演出もそんなにしないですけど、やっぱりお腹を痛めて産んだ子というか……。
- 扇田
- 愛があるプロデューサーとして、
- 佐藤
- やだなぁ~、もう~。
- 松本
- やっぱり僕もそう思いますし、巷でもよく聞きますよね。愛があるプロデューサーって。
- 扇田
- 愛と酒のプロデューサーってよく聞く(笑)。
- 佐藤
- “時間”が人間で一番大事なことだと思うんです。とにかく時間を費やすようにしてます。
なるべく複数並行で仕事をしないようにしていて、一つだけに注力する。
稽古場も全部行くし打ち合わせも全部出るし、でも口を出さないでずっと見てる。
- 扇田
- 確かに愛のある演出家さんって他にもいるじゃないですか。でも、単発で終わる方が多いように思うんです。
持たなくて、ビジネスとして割り切れなくて、結局2回目ができませんでしたっていう人が多いんですけど。でも、 続いてますよね。それがすごい。
- 佐藤
- それはね、ずっと同じ人とやっていないっていうのがいいのかもしれない。ずっと同じ人だと絶対馴れ合って癒着するか、喧嘩するかのどっちかだから。
- 松本
- 扇田さんの言うことは分かります。舞台でも映画でもプロデュースしたいって思って、それこそ自分でお金を用意したりとか、めっちゃ愛のある人っているじゃないですか。
でも 終わったり、 振るわないことが多いんですよね。続いてるって事は、何か意味があるんですよ。
知らない人もいるかもしれないのでちょっと確認なんですけど、 全部の現場にいるんですよね?そして、何も口を出さないんですか?
- 佐藤
- もちろん、たまには言いますよ。 「ちょっとあの…○▲※☆$□」ぐらい。あとは、稽古の一番最後に何か……、
- 扇田
- えっ!稽古中もずっといるんですか!?
- 佐藤
- いますよ、もちろん。
- 扇田
- えー、すげぇ!
- 松本
- まず、そんなプロデューサーさんはいないです。
- 扇田
- 絶対いないです。来ない奴いますもん。
- 細川
- うん。
- 扇田
- 劇場で会って「あぁ~ どうもどうも」みたいな。
- 細川
- あぁ おったなぁ、って。
- 佐藤
- 顔合わせから千秋楽まで全部いるし、本番も全部見ます。演出家より見ます。演出いない時ありますから。
- 細川
- すげぇ!
- 扇田
- すごいなぁ!
- 佐藤
- 最前列の見切れ席か、後ろの方の席でね。
- 細川
- 佐藤さん、雇ってくださいよ。
- 佐藤
- いやいやいや、分かんないですよ。あ、いやいやじゃないか。
- 細川
- 使ってくださいって。
- 松本
- こんなプロデューサーとやりたいですよね。
- 細川
- やりたい、やりたい。
- 扇田
- だって、本当にヒドいところは現場制作さん も付けずに「役者のスケジュール帳です」って渡されて、稽古がほとんど× なんですよ。これで俺は何をしろと!?
- 佐藤
- 稽古場付きの制作さんとかいないんですか?
- 扇田
- いないです。
- 佐藤
- それはやばいですね。責任取れないでしょ。
- 扇田
- 全部責任はこっちです。
- 細川
- そうなんです、本当に。
- 扇田
- 僕、なぜかマネージャーに怒られてます。
「いや、僕知らないですぅ……」って。
- 佐藤
- プロデューサーは、とにかく要点を押さえないといけなくて、全部見て情報を仕入れとかなきゃいけないのと、何か起きた時に責任を取る。
だから稽古場に全部いるのも、誰かがいきなりケガした時とか、誰かと誰かが殴り合いの喧嘩になった時とかに……。
- 扇田
- ほぉ~、偉い!
- 佐藤
- そんなことにならないですけどね、僕の団体は。
- 松本
- でも、ずっといる必要はないですよね。演出部でも演出助手でも、何らかの補填ができるじゃないですか。普通はそうしてますよね。
- 細川
- 週に一回でいいんですよ、本当に。
- 佐藤
- いやー、単純に好きなんですよ。向いてるんでしょうね。僕の好きな役者さんが芝居をしてるのを見てるのが、単純に好きなんです。
- 細川
- 僕、佐藤さんにすごく聞きたかったことがあるんですよ。なんで演出をやらないんですか?
- 佐藤
- 最初の2本、『SLeeVe』 と『THRee’S』 は演出をやったんですよ。でも、演出までやっちゃうと手が回らないんですよ。
- 扇田
- 今、規模もだいぶ大きくなってきましたからね。
- 佐藤
- 後、出演はかたくなにしてないです。めちゃくちゃ出たいんですけど、前説だけ。
- 一同
- (笑)
- 細川
- いや、すげぇなー。
(つづく)