【ネタバレ注意】対談中、過去作品のストーリーの核心に触れる部分がございます。ご了承の上お読みください。
久保田唱×松本陽一(4)
2時間サスペンスが好き
- 松本
- ミステリーとかサスペンスとか好きなんですか?
- 久保田
- あー、好きですね。
僕、家はほんと、寝に帰るぐらいの感じで、家にいることが少ないんで、あんまりテレビって見ないんですけど、ただ、やってると足を止めて見ちゃうのが、ニュース番組と2時間サスペンス(笑)。
- 松本
- へえー。火サス的なやつとか?(笑)
- 久保田
- 火サス的なやつですね。僕、脚本書くだけの日は出勤時間が決まっているわけでもないので、午後の時間帯になって再放送とかやってると、ついつい「あ」って見ちゃうくらい、ニュースとサスペンスものはすごい好きですね。
- 松本
- 2時間サスペンスが好きって人、あんまり聞かないですね。
- 久保田
- あー(笑)。好きなんですよ(笑)。
- 松本
- でも、『今だけが 戻らない』も『時をかける206号室』も要素としてはサスペンスが強いですよね。
- 久保田
- そうですね。ただ、いわゆる2時間サスペンスの作り方な感じのものを自分が作りたいかっていうと、ちょっと感覚が違って、なんかもうちょっとひねった感じにしたいなっていう思いがあったりして。
- 松本
- それはなんかすごく伝わりますね。
やっぱり、そんなにSFでもなかったし、最終的にはサスペンスだなあってすごく思って、Twitterで感想を書いたんですけど、サスペンスって演劇に向かないんじゃないかなってすごく思ってて。
- 久保田
- うーん。うん。
- 松本
- 自分もミステリー要素とかそういうのはよく作品に入れるんですけど、手元の資料が見せられないとか、フラッシュバックのように、あの時ここから見ていたみたいなのがパッと使えないとか、やっぱり映像には勝てないというか、映像の方が圧倒的に向いているジャンルだなって思っていて。『今だけが 戻らない』は、そこに堂々と挑んでいて、あっぱれだなと思ったんです。しかも割と正統派サスペンスで、それはやっぱり火サス好きっていうところがあるんですね。
- 久保田
- そうですね。好きなのが(笑)。小説とかもそっち系の方が結構好きなんです。
- 松本
- 小説だと、叙述ミステリーっていう、読んでる人を書き方の構成でだますっていう手法ですよね。例えば伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』とか、途中まで別人だと思っていたのが実は同一人物だったみたいな。そういう手法も結構使われてますよね。
- 久保田
- そうですね。まさに『アヒルと鴨のコインロッカー』は好きで。
- 松本
- 『時をかける206号室』も今回も形としては叙述ミステリーなのかなっていう。
- 久保田
- そうですね。まあ、今 やっている『ロストマンブルース』もそうですけど、最初に語り部っぽく主人公に出て来てる人が一番何も知らなかったとか、そういう形って世の中でもあることだと思うし、「この人こうなんだよね」とか「アイツこういうとこあってさ」って言うやつが一番だまされてたり。
- 松本
- はいはい。
- 久保田
- でも舞台の欠点というか、巻き戻しができないし、人物のアップもないので、相当覚えてないと起こったことに気付かないことの方が多いなって。なんとなく観てる人は。
- 松本
- 例えばドラマとかで、ちょっと不穏な表情を見せるクローズアップがあれば、ああ、この人怪しいのかなって伝わるんですけど、舞台じゃそういうのできないじゃないですか。
- 久保田
- そうですね。なので、それこそ、休憩前に真壁啓って出したときに、大抵の人が「誰だよ!!」みたいな感じでツッコんでもらうために、名前の出し方をすごい意識したりしてて。あんまり日常生活で人の名前を呼ばないと思うんですけど、あえて名前の呼び方や呼ぶタイミングや回数で、できるだけお客さんにこの人の名前はこうだっていうのを少しでも覚えてもらえるように、って昔から意識していますね。もう名前で覚えてもらえないって判断したときには、特徴で覚えさせるっていうことをするんです。特に去年マンガ原作の舞台で、シャーロックホームズものをやったときに、オリジナルキャラクターを出したんですけど、日本人なんて外国人のカタカナの名前とか覚えられないですよね。僕も覚えられないのに。
- 松本
- あの、映画見て「ダニーって誰だっけ?」ってやつですよね(笑)。
- 久保田
- そうなんです。もう作者の僕も覚えられないのに、観てる人が覚えられるわけがない。7人の容疑者っていうサブタイトルがついていて、7人が最初の方にバーッって紹介されるんですけど、絶対に覚えられないと思って、そこからは名前をほとんど呼ばずに肩書きでしか呼ばないようにして。あのピンクのババアが、あの執事は、あのお嬢ちゃんは、あの記者が、みたいな感じで言うと、名前を覚えなくてよくなるんで、そういう時は名前にあんまり仕掛けをしないで、仕掛けをする名前だけ抽出するみたいな意識はしていて。
今回は日本人の名前だったから、真壁啓って出た時に「誰だよ!!」ってなりつつ、あえて親子の話を出したりしたんで、「あれ、主人公の渡部って親子が出てきてたよな?」とか、いろいろ混乱するようなぐらいの仕掛けに。
- 松本
- いい塩梅の混乱具合を(笑)。
- 久保田
- そうですね。「誰かな?」の「かな?」ぐらい(笑)。あいつか、あいつか、でも、あいつも…、くらいの感覚を残して。
(つづく)