図師光博×松本陽一(2)
ピエロにどシリアスを
- 松本
- 僕が初めて図師さんを観たのが、MOSH でしたね。ウチの椎名 が出てた回 。
- 図師
- はっはっは、そうでした(笑)。だからこそ僕、不思議だなと思ってて。松本さんに初めて観てもらったのがMOSHなわけですよ。あれって、極端な言い方するとコント。
- 松本
- ま、ちょっとしたバラエティ公演ですよね。短編コントあり、アドリブあり。
- 図師
- あれを初めて観てもらって、次に初めてオファーをもらったのが…。あ、『ザ・ボイスアクター』 はゲストで出たんですけどね。
- 松本
- ゲストで出ましたっけ?(笑)
- 図師
- いや、出…。LIVEでやった『ザ・ボイスアクター』に、僕1回出てますよ。そこそこウケましたよ! ちょっとぉぉぉ、これ書いといてくださいね!ゲストで出たか?って。新宿村
- 松本
- どんなネタやりましたっけ?
- 図師
- いや、どんなネタって……、そりゃもう、僕も覚えてないですよ(笑)。
- 松本
- そっか(笑)。あれ?たぶん、オファーしたけど合わなくて、じゃあ日替わりならなんとか、ってことだったんじゃないかな。
- 図師
- いや違いますよ。ただの日替わりのオファー(笑)。
- 松本
- ただの日替わり?(笑)
- 図師
- ただの日替わりで出ました。死ぬほど緊張したのは覚えてます。
で、その通し稽古を稽古場に初めて見に行って、衝撃を受けたんです。
- 松本
- ちなみに どっちを見たんですか?
- 図師
- 両方です。むちゃくちゃ面白かったです。
- 松本
- なんか、それを言ってたのは覚えてます。
- 図師
- そこを覚えてて、出たのは覚えてないんすか?(笑)
- 松本
- そう言えば。
- 図師
- そう言えばって(笑)。
その時はあんな 感じだったんで、ちゃんとした演出をもらったのは『ふたりカオス』 なんですけど。
あの、どシリアスな役 をもらったときに、MOSHを観てこの役をくれるんだ!?と思って、ビックリしましたね。MOSHでしか知らないから、あの時は、僕のキャラクターを知らないじゃないですか。 ゲストはほとんど笑い取るようなところだったから、小沢さん とのコメディのやつ は分かるんですけど。あ、ここを僕にやらせてくれるんだ、と思って。
- 松本
- はあはあ。
- 図師
- 正直あんまりシリアスをやらせてくれる演出家はいないんですよ。僕はシリアスな芝居をしたいんですけど。
- 松本
- みんな“図師”を求めてるんだ(笑)。
- 図師
- “図師”を求めてるんですよ(笑)。
だからあれをもらった時は、めちゃくちゃうれしかったですけどね。その代りめちゃくちゃ大変でしたけどね。
- 松本
- MOSHの話を思い出すと、なんか今パッと言葉が浮かんだんですけど、すごくピエロな人だな、と思ったんですよ。
- 図師
- あー。
- 松本
- 道化師というか。だから、笑いのジャンルというか笑わせる演技のジャンルが、すごくほめた言い方をすると、いわゆるチャップリンの方向なの。極端かもしれないけど。
- 図師
- あー。なるほど。
- 松本
- だから、キャラクターで押すお笑い芸人さんとか、そういうことではなくて、ちょっとした悲哀も感じたぐらいですよ。今思い出すと。
- 図師
- へぇ~!
- 松本
- 今詳しく思い出してたんですけど、MOSHの中で、ちょっとバカなお兄ちゃんみたいな役やってませんでした?ちょっと知的発達障害みたいな雰囲気の。
- 図師
- やってました、やってました。
- 松本
- 短編でいろんな役ををやっていたから、この短編だけすごく稽古してるわけでもないだろうな、と思ったので、こういうのをもっと深く掘り下げたらなんか面白いものが出るような人かなー、っていうようなイメージを持ったんです。そこから、シリアスなのをやってみてもらいたいなぁと思ったのかもしれないですね。
- 図師
- ふーん。
- 松本
- だから、スタートがアンチ“図師”からいきたかったんですよ(笑)。
- 図師
- なるほど、“図師”じゃないところから、ってことですね(笑)。
- 松本
- “図師ワールド”を……違う顔から見てみたい、みたいな。
- 図師
- なるほどねー。
- 松本
- なので、順序としてはアンチ“図師”が先にあったんです。でも『ふたりカオス』は、ザ“図師”と、アンチ“図師”のふたつやれる公演だったので。
- 図師
- あれは、役者としては、どっちもできる楽しい公演でした。
僕、そんな人気ないですよ
- 松本
- 僕が観た『MOSH08』は何年前ぐらいなんだろう?
- 図師
- あれは2年前です。
- 松本
- ああ、その頃からかな。なんか知らない間に、界隈が「図師ってヤツがいるらしいぞ」って、図師、図師、図師、図師言い出したんですよ。
- 図師
- ハッハッハッハ(大笑)。
- 松本
- 図師って名前がまた特徴的でもあるし。
- 図師
- まあ、そうですね(笑)。
- 松本
- だから僕からすると、なんか彗星のごとく現れたみたいな印象があって。
- 図師
- いや、でもそうですよ、本当に。僕2年前はまだ事務所入ってたんです。今フリーなんですけどね。その事務所をやめて、俗に言われる“この界隈”(笑)に入った、と思ってます。
- 松本
- じゃあ、それまではそんなに舞台もやってなかったってことですか?
- 図師
- いや、前の事務所が自主舞台で自分たちで舞台を打つ事務所だったんで、そこでは何公演も出たりとか、あとは自分のつながりで出てたりとかはしてたんですけど。
だから言ってしまえば、ボクラ団義さんとか6番シードさんとか、“この界隈”(笑)に呼んでもらえるようになったのは。2年も経ってないですよ。
- 松本
- でも忙しいですよね。
- 図師
- 僕ね、これを言っとこうと思って。
- 松本
- うん。
- 図師
- …… そうでもないっすよ(大笑)。
- 松本
- (笑)
- 図師
- 僕、そうでもないんです。
- 松本
- ちなみに、去年とか、今年の今までだと、年間どのぐらいのペースで出てるんですか?
- 図師
- まあ、10本ぐらいじゃないですかね。
- 松本
- 10本なら相当忙しいでしょ。舞台だったら。ほぼ月イチですもん。そりゃあ、あなた忙しいですよ。
- 図師
- そうかなあ……。
- 松本
- もっと忙しい人いる?
- 図師
- どうなんでしょう。椎名とか、もっと忙しいんじゃないですか?
- 松本
- 椎名でも10本ぐらいじゃないですか?
- 図師
- そんなもんですか。……じゃあ、忙しいんすかね?(笑)
- 松本
- でも、 あんまり忙しい感覚ないんですね。
- 図師
- よく言われるのが、「図師クン、よく呼ばれるからねぇ、いろんなとこ。」とか、「人気者だからねぇ。」とか。
だけど、そうでもないんですよ!(笑)
- 松本
- (笑)。それよくありますよね。
- 図師
- このギャップはねぇ~!いや、うれしい部分もあるんですよ。そう言われてうれしくない人はいないと思います。
- 松本
- ちょっとした風評被害もあったりするんですか?
- 図師
- あるんです。
- 松本
- 実は3か月仕事ないのに、勝手に忙しいと思われちゃうってやつね。
- 図師
- そうなんです。あのー、「儲けてんでしょ?(笑)」とかも言われるんですけど(笑)。お金の話になると、やっぱり役者って人気商売だから、どれだけ人気があるかなんですよ。
- 松本
- うん。
- 図師
- でも、そんな人気ないから(笑)。僕を雇う側が、それだけの価値があると思って来ちゃうと、ギャップが生まれるんですよ。僕はそんなに人気ないって思ってるのに、あなたはそんなに人気があると思ってる?っていう。いやいや、僕まだそんなんじゃないですよ、って。
人気か実力か
- 松本
- 例えば、「チケットだってめっちゃ売れるんですよね?」とか。
- 図師
- そこです(笑)。今、ずーっと、フワっと流してきましたけど。
- 松本
- どっちが言いたいのかなって(笑)。1ステージのギャラが言いたいのか、チケットの枚数が言いたいのか、どっちの話で切り込もうかなと思ったんですけど(笑)。
- 図師
- どっちもですよね。 フリーになったときに、全部の管理を自分でやるから、そこを感じるようになっちゃったんですよ。
- 松本
- はい。セルフマネジメントですよね。
- 図師
- やっぱり価値が見合ってなければ雇われなくなっちゃうだろうし、そこそこちゃんと丁度いい感じにしないといけないから。ただ芝居が……。これね、僕が逆に松本さんに聞きたかったんですけど。
- 松本
- はい。
- 図師
- 若い子で芝居があんまりうまくない、うまくないというより、そんなにやったことがない。ただ、 150枚アベレージで売ります、という役者がいます。一方で、めちゃくちゃ芝居がうまい、ただ30枚ぐらいしか売れない役者がいます。っていう状況があったとしましょう。
- 松本
- はい。
- 図師
- でもお金に換算すると、やっぱりチケットが売れないと興行にならないじゃないですか。その上で、「芝居がうまい」ってものに対してお金を払う感覚ってあるんですか?
- 松本
- ああ、つまり、枚数でギャラを払うのか、芝居がうまいことにも 、ってこと。
- 図師
- 付加価値というか。
- 松本
- たぶん、そこのジレンマや悩みはあるでしょう。
- 図師
- まあ、役者はみんなあると思います。
- 松本
- 確かにね、雑になってる部分だと思うんですよ。
- 図師
- あー。
- 松本
- 変な話ですけど、あなたの人気にこれだけのギャラを払います、あなたの実力にこれだけのギャラを払います、みたいな提示の仕方にはならないじゃないですか(笑)。
- 図師
- ならないですよね。
- 松本
- だからどうしても足元を見ているようなとこはあると思いますよね。
- 図師
- まぁー、でもそうですよね。
- 松本
- 僕は雇う側でもあり、プロデュースする側でもあり、演出家でもあって、こういう話をしていくと、自分の行動と矛盾することも出ます。時には、値切るっていう交渉も必要ですよね。
- 図師
- まあまあ、それはね、商売ですからね。
- 松本
- ちょっとギャラ高いんで、みたいな。一方で、その価値をアップさせていきたいとは思っていますね。
- 図師
- あー。
- 松本
- で、その図師くんの実力への対価っていうのは、これはたぶん太古の昔から言われていることだと思うんで。なんでしょうね。昔の角川映画だったら、薬師丸ひろ子がいて、脇に渋い人がいるっていうね。
- 図師
- はい。そうですね。分かります。
- 松本
- それがたぶん、見直されるとは思いますよ。演劇界ももっと。そっちの方に行くんじゃないかなと。僕自身もそうしたいな、とは思いますね。
- 図師
- うーん。だから役者としてはたぶん、どっちも2流なんですよね、その状況って。「人気があって芝居も抜群にうまい」が、本当に第一線でやられている方々だと思うんです。だから、この状況になっている自分は、あーまだまだ2流、3流なんだな、って思うんですよ。
(つづく)