図師光博×松本陽一(3)
ファンサービスが苦手
- 図師
- まぁー、このファンという、自分の個人のお客さんという所が舞台役者は命綱なんで、ファンサービスというか、そこにやっぱり比重をかける部分もあるんですよ。
- 松本
- はいはい。
- 図師
- それが苦手なんです。というか、昔の感じなんですかね。
- 松本
- 気質が?
- 図師
- 「芝居が良けりゃいい」っていう思いがあるんですよ。いまだに。なんと言えばいいのか。ちょっとしたプライドと言ってもいいのかなあ。
でも昔に比べれば全然ないですよ。昔の僕はかたくなに楽屋から出ないっていう(笑)。ただの人見知りだったんで(笑)。
- 松本
- ストイックなカッコ良さを持っていたい、みたいな?ただ、図師くんは、いわゆるファンサービスとか、フレンドリーにやってる感じがしますけどね。見た感じ。
- 図師
- そう見えてるなら良かったです(笑)。
- 松本
- すごい頑張ってやってるのかな。
- 図師
- これは人見知りの人に限って多いと思うんですけど、芝居は人見知り関係ないから、人見知りだからこそ芝居が好きなんですよ。自分の表現も怒れば良いし。僕は怒らないんですよ、私生活で。怒れない人なんで。でも芝居だったら怒れるじゃないですか、泣けるじゃないですか。それは芝居だからって言う部分があるので、対お客さんってなった時は、まず緊張なんですよね。
- 松本
- 面白いですね。さっきから“図師図師”やってるじゃないですか。舞台の上での“図師ワールド”ってことで。
- 図師
- はい(笑)。
- 松本
- 本当の図師になった時、一番しんどいってことでしょ。
- 図師
- そうです。
- 松本
- お客さんと対面して、役もない、本当のただの図師光博ですよね。
- 図師
- あのね、たぶん…
- 松本
- 役者図師、スター図師光博、ですよね。
- 図師
- あははは。これを言っちゃうのもどうかと思いますけど、皆さんたぶん勘違いしてる部分があると思います。僕は……、素の図師は、超つまんないっす。人見知りだし、だからお客さんと喋ってる時も1個2個 上げてますし、
- 松本
- そこもやっぱり演じてると言うか通常のモードよりはちょっと…
- 図師
- 上げないと、ダメだし。
- 松本
- まあね。なんか図師が見えてきたぞ。
- 図師
- 僕はそのファンサービスと言うか、キャラクター はやっぱ人見知りだからこそあえて振り切ってやるんですよ。
- 松本
- うん。
- 図師
- じゃないと居られないというか。
- 松本
- 本当の図師は楽屋で……隅っこで座っていたい。
- 図師
- そうです。誰よりも衣装をそっと脱ぎ、誰よりも遅めに楽屋を出るとその時間が減るじゃないですか。4年前の僕だったらそうでした。
- 松本
- 面白いなー、小学生レベルの逃げ技ですね。
- 図師
- ククククク。
- 松本
- ウチの樋口くん もコミュニケーションしたくないやつだから、図師くんと根っこが近いのかな。あいつもあれですよ、チケットが全然売れない。例外ややり方はあるにせよ、現実的なものはあると思いますよ。その役者さんを潜在的には好きだけど、 買うかっていうとそうでもない人ってのは数多あって。
- 図師
- それはそうなんですけど、僕は、あの人は…
- 松本
- それはそれで価値があって。
- 図師
- えぇ、ものすごい価値がある。
- 松本
- でもやっぱり劇団主宰としては、ファンサービスをして、もうちょっと売れよって思う面もね。
- 図師
- ははは。いやでもね、ホントそういう意味では樋口さんは僕の中で代表的な人で、唯一無二というか……、天性っていうか。役者だから、役をどうこうする上手さってのも ありますけど、生まれ持ったその容姿もそうかもしれないし、キャラクターもそうかもしれない。そういう 部分もあるじゃないですか。
- 松本
- うん。
- 図師
- 樋口さんは、それこそ『ザ・ボイスアクター』の稽古で、初めましてで芝居を見た時に、めちゃくちゃずっと見てたんですよ。
- 松本
- あの時、割とまともな役やってましたよね。おじちゃん声優の役を。
- 図師
- もうトリコでした。特別技術があるとかそういうんじゃないんです。この人なんだろなー、なんだろなーと思いながら、度外視して見ちゃうんです。
感情表現ができないから虚像を作る
- 図師
- でも、僕が芝居してる理由って結構そこ が気持ち良いと言うか、本当の図師は自分の感情の表現ができないんですよ。これ一種の病気だと思いますけど、自分の感情を悟られたくない。
- 松本
- ほほぅ。
- 図師
- 極端な話ですけど、僕がサンダルを履いて夏に電車に乗っている時、目の前にいたピンヒールの女性が電車が揺れた瞬間に僕の足を踏んだんですよ。ピンヒールですよ。
- 松本
- す、すげぇ痛いじじゃないですか。
- 図師
- 穴開くかと思いましたし、あ”あ”ってなりましたよ。でも、女性がパッと振り向くじゃないですか、その時に僕は痛い顔をバレたくないんですよ。
- 松本
- どう考えても痛いですよね。
- 図師
- どう考えても痛いのに、僕の取る行動は「何か?」「どうしたんですか?」みたいな顔をすること。内心はめちゃめちゃ痛いんですけど。…って言うよくわかんない性格なんです。
- 松本
- 痛いは別にバレても良いですよね。普通は。
- 図師
- 本当はね。
- 松本
- その後、不快な顔をしているのが伝わるのが嫌だって言うのは分かるんですよ。でも痛いと言う生理反応すら見せたくないんだ?
- 図師
- それすら嫌なんですよ。だから表現が下手なんですよ。怒ることも。ただ舞台上では好き勝手できるから。
- 松本
- これ聴いていて面白いなと思ったのが、多分結構な人数が図師くんをかなり社交的な人だと思っていると思うんです。お客さんも関係者、役者仲間とかも。
- 図師
- そうなんですかねぇ。
- 松本
- で、さっきから舞台上の“図師図師”言ってるじゃないですか。“図師ワールド”って。
- 図師
- はい。
- 松本
- それってそういう感じなんですよ、オープンで感情表現が豊かでというか、陽気な人とか。
- 図師
- そうですね。
- 松本
- てことは舞台上の“図師図師”言われてる図師は、本当の図師じゃないですよね。あれも演じられてる“図師”になるって事ですよね。
- 図師
- これを言ってしまうと僕は仕事に影響が出るんじゃないかなぁ……(苦笑)。だから正直に言ってしまえばそうなんですよ。僕は素ではいられなくて、内気な…社交的じゃない人って思われたくないから頑張るんですよ。
- 松本
- その頑張った偶像が、なんなら虚像と言ってもいいんですけど。
- 図師
- ああ、虚像かもしれない。
- 松本
- それがみんなが思ってる“図師光博”なんですよ。
- 図師
- でも役者としてはですよ、ものすごく変な言い方をすると、騙せている。演じきれてる。
- 松本
- 僕らが「何やっても素の図師じゃん」て思ってる時点で騙されてる、ってことでしょ。
- 図師
- そう、みんな騙されてる(笑)。
(つづく)