久保田唱×松本陽一(9)

※2016年12月3日、都内某所にて

【ネタバレ注意】対談中、過去作品のストーリーの核心に触れる部分がございます。ご了承の上お読みください。

久保田唱×松本陽一(9)

絶望を経た先に

久保田
脚本書く人の苦労っていうか、書いたことある人にしか分からない苦悩がありますよね。さっき書く順序の話にもなりましたけど、順序のことについて言われても(普通の人には)分からないところがある。
松本
そうですよね。僕はね、これはある意味自慢かなと思っているんですけど、長編に限りなんですが、1作品仕上げる時に、必ず1回死にたくなるくらい絶望するんですよ。
久保田
(間髪入れず)僕もです。
松本
何度もキャリアを重ねて、例えば脚本の仕組みとかは分かってくるじゃないですか。だからもうちょっと、心をすり減らさなくても書き上げられそうなもんだな、って10本20本書いて思ったりもしたんです。でも毎回ある。これが無いと多分出来上がらないんだなって思ってます。
久保田
なんでうまく書けないんだろうとか、ダメだな、って思う時が毎回あったり。
松本
必ず1回あって、それを乗り越えるドラマがあるじゃないですか。最近はこれがないとダメなんだなっていうのと、まだ来てないな、っていう変な不安が。まだ死にたくなってないなって。
久保田
でも僕は、それがもう嫌だって思っちゃう。来て欲しくないって。
松本
来て欲しくないって思っちゃいますよね。なんでだろう?
久保田
やっぱり必ずありますし、さっき松本さんにも聞かれましたけど、「どうやって考えてるの?頭の中どうなってるの?」って聞かれたり、「よくこんなの書けますね」とか言われるんですけど、僕も自分でも思ってますよ。それくらいしんどい作業というか、上手く行きっこない作業というか。それこそ、自分がその作品の執筆作業が終わってしまうと、もう二度とやりたくないと思うくらいになりますし、自分の作品を見返してみて、どうやって書いたんだろう?ってなりますね。
松本
それはありますね。再演の時に、よくこんなこと思い付いたなって思うんです。
久保田
そうなんですよ。どこでここを繋げたんだ!?って
松本
この伏線すごいな、松本さん!って(笑)。
久保田
ハハハ(笑)。自分だったらできないって、自分の作品なのに思っちゃったりして。

松本
死にたくなる場所っていうか、筆が止まる場所ってどの辺ですか、ストーリー上。
久保田
作品にもよりますけど、2時間だったら1時間20分とか。
松本
やっぱり一緒なんだ!(笑)
そこですよね。僕は「6幕危機」って呼んでるんですけど。8幕劇の2時間ものを作るとした場合、8等分するとなんとなく見えるって考えて、目次を付けてるんです。起承転、を超えて、真ん中超えて、クライマックス前の、あの1時間20分のあの辺がクソしんどいんですよねぇ。
久保田
そうですね(笑)。
松本
やっぱり一緒だ(笑)、おもしれー!
久保田
そこを抜けると残りはいけます。
松本
そこを抜けちゃうと、もう後は時間と体力があれば一気に書けるくらいの。
久保田
むしろ、止めることが危険になる。
松本
ああ、そうそう。
久保田
思いついてるうちに、やっちゃおう。
松本
この勢いを大事にしよう。で、その勢いを大事にして、構想とかも出来上がっていけるいける!ってなってるけど、今日は1時間しか書く時間がないから…明日にしよう、とか、万端に整えてる。
久保田
そうですね、下手なとこで止めるとちょっと…。
松本
最後に勢いつけて一気に行くところですよね。
久保田
やっぱりみんな一緒のところがありますね。
松本
脚本家5~6人集めて、こういうキーワードについて話したら面白そう。

僕の夢なのでこれは僕のもの

久保田
話変わりますけど、話さず止まりだった、『今だけが 戻らない』のラストシーンあるじゃないですか。
松本
あ、戻ってきた!
久保田
脚本のレパートリーとして、こんな過程で書く方法もあるのか、って思ったものなんですけど。みんなが楽しそうにしているあのラストシーンは、今までの書き方と思い付いたきっかけが違っていて。あのー、最近僕、芝居の夢ばっかり見るんですよ。

松本
それは充実期なのか、病んでるのか。
久保田
この前の芝居の評価を誰々が今発表します、星3つです!みたいな夢もあったり。
松本
チューボーですよ的な(笑)。
久保田
そういう感覚で誰かが言ったり、芝居のシーンだったり、今(稽古で)見ている芝居とは全く違うことを夢に見たりして。で、『今だけが 戻らない』を書く前くらいに、全く知らない他人の芝居を見に行った夢があったんです。見てみたら、それまでの怒涛な展開に比べて、ラストシーンがすごく穏やかで。今まで相当なことが起こったはずなのに、ラストシーンはむしろリフレインというか、穏やかだった時代のみんなの穏やかな表情をただただ描いているだけで、そのまま暗転して終わるんです。終わった瞬間に客電が付いて、「やられた!」って思ったんです。「最後にただただ穏やかなのを見せられたら、それだけでもう何も言えないな」「あいつ、面白い芝居作りやがったな」って、夢の中の誰とも知らない脚本家・演出家に対して思ったんです。夢の中だから、不思議なことに舞台上全部凍ってたり、めちゃくちゃなんですけど。
松本
そういう不可思議な劇場で起きたりするよね。
久保田
夢から覚めた後に、ああいうシーン作りもあるんだ…って思うんですけど、僕の夢なのでこれは僕のものだ!って思って。ただただ最後に日常を描くのもあって良いんだ、って『今だけが 戻らない』のラストシーンになったわけです。
松本
夢で生まれてたんだ。良いラストだったと思いますよ。その前に、事件的なクライマックスで客的にも盛り上がるじゃないですか。ただ、お客さんって、いつカーテンコールだろう?とも考えちゃう。これで終わりじゃないな、もうちょっとあるだろう。何だろうな?って思っていたんです。それで、あのラストシーンが来て、ああこれ良いな、穏やかなの持ってきたなぁ、って。そして最後に3人が泣いてる。僕はあのラストが好きですね。夢でヒントを得ていたんですね。
久保田
そうだったんですよ。夢で、自分が作った舞台を2時間丸々見るっていうことがあるんですけど。
松本
へぇ、すごいね。
久保田
でも、残念なことにぜんぜん覚えてないんですよ、起きてから。
松本
僕は役者さんがよく見る、それこそセリフ覚えてないとか、嫌な本番系は見ますね。
久保田
それも見ます(笑)。
松本
僕の夢では舞台上でテロが起きたことがありますから(笑)。舞台上でマジックショーをやっていて、それが上手く行かなくて爆発して、それが何者かのテロだ!って警察の特殊部隊が客席に乗り込んできて劇場がめちゃくちゃになる。
久保田
ヘぇ~。それも嫌ですけど、やっぱり自分の舞台に自信がないのか、不安を抱えているのか、それこそ脚本を書いていない時期、書き始めた序盤の時期に見たのが、やってる途中でお客さんがどんどん帰っちゃう夢で。

松本
あー、ありますね…。
久保田
やってる途中でどんどん帰っちゃって、なんでなんで?そんなにダメなもの作ったかな?って焦って、最終的には舞台に上がって「そんなにダメですかーーー!!!」って叫ぶっていう。
松本
ウハハハハ(笑)

(つづく)