高橋明日香×松本陽一(8)
自分自身のペラさに泣いた
- 松本
- じゃあ、本業の女優さんの方の話を聞こうかな。なんかちょっとこの間、ちらっと聞いたんですけど、人数の少ない芝居に興味がある、みたいな話を言ってましたよね。
- 高橋
- はい、言ってました。ここ2年くらい、いろいろ忙しく舞台をやらせていただいてたんですけど、自分の力の限界をわりと感じてて。引き出しは増えたんですよ、ありがたいことに。ただ、もっと違う引き出しが欲しいのに、どんだけ舞台踏んでも別の引き出しを見つけられなくなってたんですよ、私が。
- 松本
- うんうん。
- 高橋
- それで、悩んでて。次こそは新しい引き出しを見つけようとか、こんな芝居したいなって思ってやっていても、それが出来なくなってきて、また同じような芝居しちゃったな、ここ止まりだったな、みたいなものがあって。新しいステージに行くか、もっと深い所を掘り下げないといけないのかなって、そういうことをすごく思ってて。大人数の芝居は私も好きですし、華やかだし、それで見せられるものもあるんですけど、大人数であればある程、一人ひとりの役の重みが軽くなるって気が私にはしていて。
- 松本
- まあね、物理的にそれはあるかもしれない。
- 高橋
- で、私の中で消化不良が多くて。がっつり少人数の芝居をしてみたいな、って思ったんです。
- 松本
- なるほどね。僕、よく“扉論”を話すんです。初舞台の頃はがむしゃらに頑張れば開く1枚目の扉があって、2枚目の扉がなかなか大変で、それは『傭兵ども』の時に開いたんだって僕は感じた。でも、3枚目の扉からは、なんか世界が広いんですよね。
- 高橋
- そうですよね。
- 松本
- あのー、劇団員の宇田川とか…椎名もちょっとそうかな?ちょっと違う扉を…、4枚目と呼ぶのか、3枚目から人によりいくつかあるのか、単に扉がステップとか階段っていう意味じゃなくなってくるんですけど、劇団員でいうと藤堂はまだ3枚目の所にいて、あすぴーもまだそこにいるっていうようなイメージですかね。次の成長とか更に上手くなるっていうのは人それぞれで、これがなかなか難しいので、まさに深い話になるなと。で、見れなかったですけど、この間少人数の舞台に出てらっしゃいましたよね。
- 高橋
- はい、四人芝居をやらせてもらいました。
『愛知のオンナ』(2017年)
- 松本
- どうでした?手ごたえや感覚は。
- 高橋
- いやー、なんか楽しかったですね。お芝居やってるなー!っていう感覚があって。『ふたりカオス』 の時もすごい思ったんですけど。
- 松本
- あー、そうですよね。そういうことですよね。
- 高橋
- はい。
- 松本
- あれが2時間あれば、より面白いですもんね。
- 高橋
- やっぱそれだけ、役を演じるっていうのはその人の人生を生きるってことじゃないですか。今までその人の人生についてそんなに深く掘り下げてこなかったな、って思ったんです。いざ掘り下げようとすると大変な作業だし、心もすごいしんどくなるし、そういう作業をじっくり出来たっていうのが私的にすごい大きくて。
- 松本
- たぶん、すごく忙しい時期に納得いかなくなったっていう時間的なものと、人数っていうか重みっていうか、その両方が合ってたんですよね。 少ない芝居を選んだことに。
- 高橋
- そうですね。
- 松本
- 掘り下げる時にしんどかったっていうのは、どんな心情で?
- 高橋
- あのー、私、わりと平凡に生きてきたんですよ。そんなに波乱万丈じゃない人生をわりと幸せに生きてきたほうなので。私が見てて面白いなって思う芝居って、すごい人間的に深い芝居を見た時なんです。複雑じゃないですか人間って、いろんなものが。そういう複雑さを見た時、面白いなって思いますよね。でも、私にはあんまり複雑さがないんですよ。誰かが死んだとか、ものすごいトラウマを持ってるとか、そういう役をもらった時に、私あんまり想像できないんですよ。そういうの想像したり、掘り下げようとした時に、私っていう人間自身にちょっと幻滅したんですよ、つまんねーな私、って。
- 松本
- 自分、ペラッペラやなーって?
- 高橋
- そう!ペラッペラやなー、幸せに生きてきたなー。って。
- 松本
- あーでも、役者さんってそういう自分との葛藤がありますよね。
- 高橋
- 人生経験ってやっぱ大事だわ、って。
- 松本
- 自分の中の何か有るものを商売にして、武器にして出すっていうのが役者さんだから。
- 高橋
- そう、私からなんっにも出てこないんですよ。 出てこねー!って。
- 松本
- 今更、 人生経験は積めないですからね。
- 高橋
- 積めないですよね。そこで悩んだ気持ちとかは無駄じゃなくて、めちゃめちゃ落ち込んだし泣いたし、
- 松本
- 泣いたんだ。
- 高橋
- 泣きました。もう…
- 松本
- 自分自身のペラさに。
- 高橋
- ペラさに(笑)。そうなんですよ。そういうのも必要だったな、って思ってます。
- 松本
- 次の成長期、なんですかね。
役者として欲が出た
- 高橋
- あと、相手を感じるっていうのが私の課題で。
- 松本
- あ、そうなんだ。
- 高橋
- そうなんです。よく、相手に合わせて芝居を変えるとか言うじゃないですか。私、わりと真面目なので(笑)、それも苦手とする分野で。同じことを同じようにやらなきゃってタイプなんです。
- 松本
- 昔はそうだったと思いますけど、その…歴史的なものもありますけど、
- 高橋
- えへへ、歴史的な(笑)。
- 松本
- 最近はそうも思わなかったり。
- 高橋
- 最近はすごい意識してるんです。
- 松本
- それでも自分の中ではまだ課題なの?
- 高橋
- そうなんです。なんか、同じことをやっていると感情が生まれてこなくなっちゃったりして。だから自分の中の感情を探す旅とか、こういう事したらどういう感情が生まれるんだろうって試してます。
- 松本
- 今までそれなりに出来て“良し”としてきたところを、“良し”としなくなったのかもしれないね。
- 高橋
- そうです、たぶん欲が出たんです。
- 松本
- 心が動いていない訳じゃないので、心の動かし方も、相手に合わす事も出来るようになってきたけど、もっとリアルにとか、もっと自然にとか、もっと自分の心がとか。
- 高橋
- リアルにやりたいです。
- 松本
- そういうところを見つめ始めたのかな。
- 高橋
- そういうのが出来る役者になりたいって思って。昔はたぶんそんなにこだわりが無かったんです。ただ必死に、言われた事が出来たら正解、演出家の言う通りにしたら正解って思ってて、それがこういう役者になりたいっていう欲がちゃんと出てきて、成長したのかな?って思って、自分で。
- 松本
- いいですねー。それは。
(つづく)