佐藤修幸×松本陽一(5)
三国志と小劇場
- 佐藤
- でも、とにかく存続して続けるっていうのが大事。続けることって何より大事だと思う。時間がとにかく僕の中で大事なことで、だから時間に凄いうるさいんです。稽古開始時間とか、休憩は何時から何時とか、開演時間にもうるさい。一緒にいた時間が長い人から信用する。
- 松本
- いろんなものの単位の中で一番大事なものが“時間”ってことなんだ。
- 佐藤
- そうですね、なんだかんだ言って。だって昨日今日会った人と仲良くなっても3年後はどうなってるか分からないし、実は嘘かもしれないじゃないですか。でも、中野 は、もう16年一緒に居ますし。
- 松本
- 石部 さんはどれくらいですか?
- 佐藤
- 石部さんは7~8年くらいですね。中野は石部さんの倍、一緒にいて、俺の事を裏切らなかった。まぁ、陰で悪く言ってるのかもしれないですけど(笑)、自分を裏切るようなことは1回もしてこなかった。
- 松本
- うん。
- 佐藤
- それはすごく貴重な人なんですよね。
- 松本
- 以前の4人対談の時にも、“義理”みたいなこと言ってたじゃないですか。
- 佐藤
- あー、はいはい。そこを掘り下げると三国志の話になっちゃうんで、長くなっちゃいますよ(笑)。
- 松本
- 三国志の話も、3000文字くらいならありかな~って。
- 佐藤
- あっ、ほんとですか?!僕の生きていく上で、三国志の中の人たちの生き方はめちゃくちゃ大事なんです!やっぱ三国志に出てくる格好いい人は、どんなに国が滅びかけても君主のために戦う!みたいな忠誠があるんですよ。そして、僕にとっての君主は、宮城なんです。
- 松本
- 初歩的な質問なんですけど、三国志の劉備とか有名な人たちは、君主に仕える人なんですか?
- 佐藤
- いや劉備は、君主ですよ。中国だから皇帝がいて、その皇帝の権力がなくなって君主がいっぱい出てきて群雄割拠になり、その中で戦うのが三国志なんです。
- 松本
- その部下たちのドラマがいろいろある訳ですね。
- 佐藤
- そう、それで僕は部下の武将なんですよ。小劇場も似てると思うんですよね、なんか。
- 松本
- ちょっと分かりますよ。戦国時代に例えても面白いかも。
- 佐藤
- 戦争はしてないですけど、いろんな団体があって、でっかいところもあればちっちゃいところもあって。いろんな国があって、劇団がいて、部下がいて…まぁ劇団は今そんなに多くないですけど。DMFも、なくなりかけちゃった時もあれば、メンバーがやめちゃった時もあるし…、でも俺、武将だし、これはやっぱり続けるべきだなぁって。やっぱりね、自分が辛い時に続けると、見てる人は見てるんですよね。僕で言ったら石部さんとか、お世話になったプロデューサーさんとかが、「それでもこいつは続けてるんだな」って。
- 松本
- おお。
- 佐藤
- 全然打算はありますよ。劇団で公演が打てない時に、自分が真っ先に「じゃあ事務所入るわ」って事務所に入っても冷静に考えて絶対に売れるわけないんですよ。そもそも才能があれば、事務所から誘ってくるはずなんですよ。そうじゃないなら、ずっとここにいたほうがいいっていう気持ちもあるし…。だいたい三国志だと、そういう残ったやつってもっと偉い君主に取り立てられるんですよ。
- 松本
- ほほー。
- 佐藤
- 戦争で自分の国が滅ぼされた時に「こいつは君主を裏切らなかったから、俺の国でも裏切らない。お前は天晴だ、よし使ってやろう。」って、もっとでかいところで活躍するんですよ。
- 松本
- 裏切らなかったことを評価されるんだ。
- 佐藤
- それと同じで、DMFで頑張ってた時にプロデューサーさんが「じゃあ1回やってみない?」って横浜の相鉄本多劇場を借りてくれて、公演を打ったのがENGの始まり。結局そっちの方が。
- 松本
- 正解だったわけですね。今は、株式会社にもなって。
- 佐藤
- 僕の人生で、唯一の社長ルートですね。どんなに枝分かれしても、僕が社長になるのは今のこれしか有り得ない(笑)。
- 松本
- 宮城さんという君主を裏切らず、よそに旅立つことなく。
- 佐藤
- 旅立っていたら、もう別の仕事とか…バイトとかしてるんじゃないですか。“時間”がすごい大事ってことと、とにかく一回決めたからにはずっと貫き通した方がいいってこと。それはやっぱり若いころに人生について考えて、出した答えですね。だからDMF/ENG提携公演って掲げてるのも、そこから来るこだわりです。宮城がDMFの公演をやらないんですもん。
- 松本
- あれは宮城さんが入るときに提携公演になるの?
- 佐藤
- そうです。
- 松本
- じゃあ、入らないときはENG。
- 佐藤
- そうです。例えば僕が、プロデューサーとして、僕がお金を出して宮城を雇ったら、僕の立場が宮城より上になっちゃう。
- 松本
- まぁそうですよね。
- 佐藤
- でも提携公演だったら、まだ対等でしょ。僕にとって宮城は君主だから、とにかく下にしたくないんですよ。そういうこだわりがあるんです。
- 松本
- はあー、なるほど。
- 佐藤
- 本当はDMF公演にしたいんですけど、俺も一応ENGという国の君主だし、さすがにそこまではできないから対等にさせて!みたいな。
- 松本
- ふたつの城で。
- 佐藤
- 別にお客さんは何も思わないでしょうが、下にするのは絶対に嫌なんです。ずっと 上でやってほしいし、彼には才能があるので、そうなっているのはラッキーですね。
噂の真相
- 松本
- 例えば、のぶさんが逆のパターンはありますか?
- 佐藤
- 逆…?なんですか?
- 松本
- 不義理とか、裏切られたとか、なんか嫌な目にあったとか。
- 佐藤
- うーん…、意外とない…かなぁ。あと、忘れちゃうんでしょうね。覚えてない(笑)。劇団を辞めるのは、その人の人生だから別に裏切りとは全然思わないし。
- 松本
- そうですね。
- 佐藤
- あ、いや、裏切られたことは…あるな。思い返してみれば。ただ、「裏切ってやったぜ、へっへっへ」みたいな裏切りはなくて、「なんかもうどうしようもなくて…ごめんなさ~い!」みたいな感じかな。ただこれ絶対に載せらんないですけど…お金持って逃げられたとか。衝撃的でしたけど、昔の話です。お金のトラブルは、今はないですね。
- 松本
- 縦社会で、例えば劇団で主宰がかなりワンマンな人だったり、熱い体育会系の人だったりした時に、裏切ったやつに対してすごく…
- 佐藤
- 攻撃的になったり。
- 松本
- そう、きつく当たる人っているじゃないですか。
- 佐藤
- あー、どうなんですかね。えっと、そいつがダメ人間だなって思ったら、僕は直接言いますね。まぁ、宮城も別に聖人君主じゃなくてダメなところあるし、三国志でも、だいたいねダメな君主のところに良い部下がいて、「殿!これはやめてください。」みたいに言うんですよ。で、殿に、「うるせー!」って足蹴にされるんですけど、それによって部下がめっちゃ格好よくみえるんです。
- 松本
- (笑)。
- 佐藤
- なるほど直接言うべきなんだ、って学びましたね。不満があったら、上に直接言う。それでその人が直してくれたらいいし、直してくれなかったら周りの人が「のぶさんはあんな風に言ってくれてるのにねぇ」って僕の評価が上がるじゃないですか(笑)。
- 松本
- そうっすね。じゃあ、DMFに於けるのぶさんって、歴史で言うと名参謀みたいな感じだったんですかね?
- 佐藤
- あーーーいや、僕は名参謀じゃなかったです。若い時の僕は引っ張っていく方でした。
- 松本
- 右腕というよりかは、引っ張る方なんだ。
- 佐藤
- 一応、看板役者ではあったんですけど。20代の僕は「やろうぜー!」ってとにかくやって、楽しそうにやって、周りを引っ張っていく方でした。
- 松本
- あのー、ずっと全力否定されるんですけど、最初にのぶさんの噂を聞いた時は…
- 佐藤
- はい。
- 松本
- 酔って全裸になるっていう噂を…
- 佐藤
- あ、それはね!酔っぱらって全裸になるって言うことは絶対にないです!シラフで全裸になる!
- 松本
- シラフで(笑)。
- 佐藤
- 酔っぱらって全裸になるのなんて最低ですよ。
- 松本
- 面識もない頃に先にその話を聞いて、大昔、僕も飲み会で全裸になったことがあったから…。
- 佐藤
- いやいや、だめですよ。
- 松本
- なんかそういう、昭和の生き残りみたいな人なのかな、って思ってた。
- 佐藤
- 違いますよ。酔っぱらって全裸になるって…パワハラじゃん。
- 松本
- ねぇ。今やったらどうなることやら。
- 佐藤
- 今じゃもう絶対やらないですけど、劇団の恒例行事みたいなもので、公演期間中の朝の返し稽古の時なんかに、「オープニングダンス、僕は全裸になります。」って了承を得た後に全裸になるんですよ。僕ね、昔体重が53kgくらいしかなくてガリッガリに細かったんですよ。だから、僕の全裸ってマッチ棒みたいで面白かったんですよね。
- 佐藤
- だからスタッフさんとかビデオカメラ構えて「コレがねえと始まった気がしないんだよね」って言って撮ってたんです。
- 松本
- 本当に恒例行事になってたんだ。
- 佐藤
- そこでまた福地 くんが、「これ確認だからな、お前らマジでやれよ。ふざけんじゃねーぞ、ぶっ飛ばすぞ。」なんて言うわけです。それによって、全裸になった俺の株は下がって、真剣にやっている福地くんの株が上がる。もちろんそこは、僕が間違えているんですよ。若気の至り以外の何者でもないです、絶対に。やっぱり大学の演劇サークル出身だから、それの悪習が残ってたんですよね。みんな最初は遊びでやってたから、そのノリが劇団に残っていたんです。
- 松本
- (笑)
(つづく)