佐藤修幸×松本陽一(7)

※2019年3月1日、都内某所にて

佐藤修幸×松本陽一(7)

電気グルーヴから学んだこと

松本
とは言っても、自分の好きの感度は大事にしているって、以前の4人対談の時にも仰ってましたよね。
佐藤
そうそう、そこは大事にしてます。電気グルーヴもずっと好きで、「絶対この人達は生き残る」と思ってて、ただピエール瀧さんは僕の思っていたのとは違う生き残り方をしましたけどね。(この対談収録の約一カ月後に、ピエール瀧さんの逮捕が報道されました。末尾に補足があります。)
松本
役者で活躍してますよね。
佐藤
電気グルーヴのメンバーの生き方がとにかくカッコいいんですよ。あと、あの人たちもよく全裸になるんですよ。あ、やばい、全裸に戻ってきちゃった(笑)。全裸の話はやめときましょ。
松本
いや、全裸絶対使うよ(笑)。

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佐藤
電気グルーヴは、ライブで全裸になるんですけど、それには彼らなりの正当な理由があるんですよ。僕はファンクラブにも入っていて、インタビューとかもめっちゃ読んでたから知ってるんです。ライブの時に全裸になることで、自分が一番下の地位に立ってるからお客さんが安心して楽しめる、という理由なんですって。
松本
へー。
佐藤
だから自己顕示欲で全裸になっているのではなくて。
松本
逆なんだ。
佐藤
自分達を貶めることで楽しめる空気を作る、という考え方を知って、「うわっ、これ凄いなー」って思ったんです。
松本
これ、のぶさんがやってきた全裸と繋がりますよね。
佐藤
そうですね。その考え方があったから、全裸になることにあまり引け目がなかったのかもしれません。
松本
割とピュアな考え方ですよね。
佐藤
電気グルーヴは、憧れだったんですよ。若い時にクラブ行った時、後輩が「今トイレにピエール瀧さんがいます!」って教えてくれたんです。でも僕、怖くて会えなかったですね。
松本
怖い?
佐藤
いや、会って挨拶しても、もちろんただそれだけでしょうけど、まだ僕は何者でもない役者を目指すただの若者だったので…まあ今でも何でもないですけど…、もうちょっとしてから会いたいと思ってたんです。憧れすぎる存在なので。

キャスティングのやり方(1)

松本
なるほどね。その好きになったモノが売れる説のセンサーというのは、近しいところでも発揮されますか?近しいっていうのは、例えば仕事でご一緒する作家さん、役者さんとか。
佐藤
あります。ただ理屈じゃ説明できないです。
松本
キャスティングって意味では役者さんにもあります?
佐藤
ええ、役者としてすっごく良いけど、なぜか自分の公演には呼ばない人もいますし、芝居は下手だけどなんか毎回呼んじゃう人もいる。
松本
良いんだけどなんか呼ばないって、ありますよね。あれ、何ででしょうね。
佐藤
でも、絶対辞めないですよ、その人たち。まだ売れてないですし、絶対もっと認められるはずの人たちだなと思ってますね。別に情で呼んだりしませんし。DMFのメンバーとかは、その人たちがいい役者ってのもあるし、僕も必要としてるから呼びますけど。

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松本
まあその前提ですよね。うちの劇団も、劇団員だから使うとかいい役を与えるとかじゃなくて、いい役者であるとかお客さんに支持されるっていうのを前提にしますね。それを僕だけじゃなく、みんなも思っている。
佐藤
6Cさんはそうですよね。理想はどっちもどんどんスキルアップして行けたらいいかな。
キャスティングの基準は、前の対談でも言った演技力、集客力、稽古場での居方や人柄ですね。
松本
やっぱり人柄ですかね。例えば実際の作業…、公演の何か月前かに劇場が決まりました、演目が決まりました、キャスティングをします、ってなりますよね。
佐藤
はい。
松本
どんなふうに考えていくんですか?
佐藤
えーっと、どうやって考えるかな。まず最初に…これ言ったら「えーっ」てなるかもしれないですけど、石部さんを(笑)。
松本
まぁ、ENGのレギュラーな人から。
佐藤
そう。迷わず石部さんは入れる。石部さんってバランスが良くて、ベテラン枠でも悪役でも入れられる。どっかに必ず入るんですよね。
松本
サッカーでいうとフォワードからセンターバックまでできるから、ポジション広いですよね。
佐藤
あの人、とにかく守備範囲が広いんです。演出もできるから、そういう思考回路も持ってるし、プロデュースもしてるからこっちの理解もあるでしょ。僕は彼の人柄も分かってるし、稽古場でムードメーカーになったりするんですよ。あの人ね、わざと怒られるんですよ。あ、中野はわざとじゃないですよ?中野は怒られるべくして怒られてるんですけど(笑)、石部さんは、先輩なのにわざと怒られに行くんですよ。そうすると、先輩が自由に試してるんだから、自分も…っていう感じで稽古場が良くなりますよ。
松本
そう言われると「劇シナ」でもあった気がします。
佐藤
だから、まず石部さんを入れて、その後にDMFメンバーを考えます。福地くん、中野、わかはとか。ただ最近は、みんなも独立してやってるんで、ちょっと後回しにしてます。実際、中野が『山茶花』(2018年6月)と『メイカ』(2018年8~9月)に出なかったんですよ。それまで中野と石部さんが全部出続けてたのに。それって良いことだと思うんですよ。外の現場に出たいから出ない選択をするのも。単純に出て欲しい人をキャスティングするのがプロデューサーの仕事だから、じゃあ僕も、そいつらに甘えないで、ちょっと劇団から離れて、ちょっと大人になって、やってみようと思ったんです。だからもし違う道を行くんだったら行けばいいさ、みたいな感じです。独立して何かやるのは1番成長する近道だからいいと思いますよ。
松本
中野さんは今ご自身の演出舞台(隣のきのこちゃん)の稽古中ですかね。
佐藤
ええ。多分めっちゃくちゃ大変だと思うんですよ。トリプルキャストの3チームで、しかもロング稽古で、劇場も狭いので。それに彼女の性格だと、言いたいこと絶対貫き通すでしょ。だから、風当たりが絶対きついはずなんですよ。でもまぁ、何が大事なことか分かってるんでしょうね。とにかく続けて、自分のやりたいことをやり通すのが大事って。ただ、石部さんは僕にとって必要な人間なので。まだ僕は石部さんを手放すほど大人になれない。だから、石部さんは呼ぶ。結局、まだ中野もわかはも福地くんも、全然必要なんですけどね。そうやって、必要な人を考えたら次は、演技を気に入ってる役者さんを据えたいです。毎回出てくれてる役者さんをなるべく入れようとする。

 

【スタッフ補足】

ピエール瀧さんの逮捕報道を受けて、スタッフ間でもこのパートをどうしようかと協議していたところ、松本からのLINEが。
「今日のぶさんと話す機会がありまして、ピエール瀧さんのくだりはあえてそのまま使って欲しいとのことでした」
ということで、ノーカットでお届けいたしました。

ここに、ピエール瀧さん逮捕当時のtwitterでの佐藤さんの叫びを掲載しておきます。

(つづく)