※2019年3月1日、都内某所にて
佐藤修幸×松本陽一(8)
キャスティングのやり方(2)
- 佐藤
- で、ここからが一番楽しいんですけど新しい枠で…
- 松本
- ここからが楽しい?
- 佐藤
- そう、新しい枠を考えるのが楽しい。例えば、宮城の作品をやる時は、再演だから台本があるんですよ。だから、この役はこの間見たあの人、あの時共演したあの人、とか考える。そうやって、候補を一役3人ぐらいずつ決めて、最有力候補からオファーしていくんです。
- 松本
- もちろんダメな場合もありますよね。
- 佐藤
- 半分くらいダメです。
- 松本
- まぁ、そうですよね。新作の時はどうするんですか?
- 佐藤
- ENGだと新作の時は、ほとんど久保田くんが脚本で、最近はコメディをやるんです。だから、コメディが合いそうな人をまず箇条書きにして、久保田くんと話して決めます。あんまり人数多いと久保田くんの負担になるから、まぁ20人くらいを。20人でも多いですし、最終的には、23人とかになっちゃうんですけど。顔合わせ時には台本が出来てたんで、さすが!って思って。すごいっていうか、当たり前なんですけどね。台本ないと。
- 松本
- 僕はいつも台本ない(笑)。
- 佐藤
- ふふっ(笑)。そんな感じでやってますね。初期の頃のキャスティングは、もう本当に共演した人ばっかりです。最近やっと、共演してない事務所の方とか、単純に舞台で見た人を入れるようになりました。
- 松本
- ちなみに、レギュラー、準レギュラーみたいな人と、新しい人のバランスってある程度考えますか?
- 佐藤
- ああ、考えます。えーっと、僕、おっさんが好きなんですよ。だからちょっと気を抜くとおっさんばっかりになっちゃって(笑)。
- 松本
- あ~(笑)。
- 佐藤
- 『Second You Sleep』をENGで初めてやった時(2016年5月)、最初は“ほぼ20代限定公演”って触書きでやってたんですけど、蓋を開けたらおっさんばっかりで。夢麻呂さん、井上賢嗣くん、石部さん、CR岡本物語さん。演出の福地くんに「いや、全然良いんですけど、これ20代限定公演のはずがおっさんばっかりじゃないですか」って、めっちゃ言われましたよ。
- 松本
- 5人も違ってる(笑)。
- 佐藤
- ごめんって思うけど、“おっさん枠”は絶対必要。主人公枠、ヒロイン枠、おっさん枠、コメディー枠。ここら辺は絶対外せないですね。4人対談でも言ったし、『劇シナ(劇作家と小説家とシナリオライター)』でも書いていただいた、“ヒロインは可愛い方がいい”論も外せない。
- 松本
- あれは言い得て妙なので、台詞で引用させてもらいましたね。新しい方にも声を掛けるようになったと言ってましたが、結構、舞台作品を見てらっしゃいますよね。
- 佐藤
- 役者さんの観劇感想も大事ですよね。あ、それで言うと最近は、うちに出たことのある役者さんをゲネプロ(劇場で行う本番と同じ最終リハーサル)に招待するようにしてます。お金払って観に来てくれる人も居るんですけど、ゲネプロに招待することによって、その人たちが宣伝してくれるっていう口コミ効果の方がいいのかなぁと思って。それに、役者が知り合いの役者の芝居をお金を払って観に行く、負のスパイラルみたいなのがあるじゃないですか。付き合いで行く、みたいな。
- 松本
- ありますねぇ。
- 佐藤
- それをなんとかゲネプロだけでもただで…、もちろん、付き合いで来る動員がないと(商売として)やってけないところがほとんどなんですよ。うちだって例外じゃないです。
- 松本
- 昔は手売り文化みたいなのもありましたしね。
- 佐藤
- そうですね。だけどやっぱり一般の人たちの方を見ていかないと、役者が楽になっていかない。それにゲネプロを見た役者が、そのファンの人に宣伝して1人観に来たら、同じことだし、2人以上来たら、そっちの方が健全な収入になるんですよ。だから、宣伝はしてもらいます。うちだって、どんどん規模が大きくなれば影響力がある人たちが出てくるはずじゃないですか。昔から出てた人たちが、影響力を増せるのが理想ですね。どんどんその影響力がある人に出てもらって、っていうのが(団体が)大きくなっていく道だと思うんで。
侮られるように生きる
- 佐藤
- 演劇って結局、絶対的に娯楽であるべきだ、って言う考えがありますし、役者は…僕も含めて、振る舞いとしてはへり下るべきだ、って考えがあるんです。河原乞食なんて言葉もありますけど。
- 松本
- はい。
- 佐藤
- 別に、世の中の身分として低い訳じゃないですよ。ただ、“居方”として下の存在であろうとする、逆に言えば、上の存在になろうとするっていうのはダメだな、って考え方なんです。だって、究極論、役者っていらない職業なんですよ。大地震とか戦争が起きた時には。
- 松本
- ま、そうですね。
- 佐藤
- それでも、人の心を支えるってのは大事な仕事だと思っていますけど、生きていくには必要ない。
- 松本
- うん。
- 佐藤
- ま、それでもなくならないですけどね。僕、ぶっちゃけ20歳の頃は、小劇場やプロレスって無くなるかなーって思ってました。
- 松本
- なるほど。
- 佐藤
- でも、プロレスも無くならなかったし、小劇場も無くならなかった。逆に、舞台に関しては昔より広がっていると思いますね。
- 松本
- 広がってますかね。その辺の話は、しょっちゅういろんなところでしてるんですけど。
- 佐藤
- この間飲んだ時も、その話をしましたよね。広がってんなーと思うし、広がってくのは分かってるんですよ。だって、僕が好きになったものは絶対残るから!
- 松本
- ほー。預言者ですね、イイっすね。
- 佐藤
- ただ「ほれみろ残っただろ、ざまあみろ」ってなっちゃうと消えるので(笑)。だから、僕が「残っただろ、すごいだろ」って言うのは漫画ぐらいで止めといてます。演劇は、「いやー残りましたねー、凄いですねー、有難いですよね。おかげさまでなんとかご飯食べさせてもらってます」、とか言ってます。あと、プロデュースしている時には、なるべく…侮られるように生きるように心がけています。
- 松本
- 侮られるように生きる?
- 佐藤
- はい。舐められる、とは違うんですけど…。
- 松本
- ちょっと面白いワードですね。侮られるように生きるって。
- 佐藤
- よくあるイメージのプロデューサーみたいに、めっちゃ綺麗な格好してカラフルな靴下履いて、高い鞄持って、「六本木行こうよ」みたいな感じの人たちは、僕とは生き方が違うんですよ。その人達はすべてのことをちゃんとやって、強く生きている人たちなんですけど。
- 松本
- へぇー。
- 佐藤
- 僕はね、そんなに強くないんです。僕が生きていくにはとりあえず、他人の警戒心を解かなきゃいけない。(プロデューサーって)初対面の人と絶対知り合わなきゃいけないじゃないですか。
- 松本
- はい。
- 佐藤
- だから、人と話して仲良くならなきゃいけないっていうのは絶対必須なんですけども、僕、そんなに社交的な人間ではないんですよ。本来社交的でない人間がいろんな人と話す為には。
- 松本
- うん。
- 佐藤
- とにかく楽をする、無理をしないようにしなければいけないんですよね。それには向こうから話しかけてもらうのがいいんです。その為には、自分がちょっとダメな方が…
- 松本
- 隙を作るみたいな?
- 佐藤
- 隙かぁ、そうかもしれませんね。
- 松本
- のぶさんは、それが上手いのかもしれない。聞くのがすごい上手な方だな、と僕は思うんですよ。
(つづく)