山岸謙太郎×松本陽一(7)
ホームページから繋がる縁
- 山岸
- パソコン教室のアルバイトをしながら、ゲームを書いたり、なんだかんだやってて。当時ホームページも流行ってて。
- 松本
- でもまだ始まった頃じゃないですか?
- 山岸
- そうですね、まだまだ初期でした。まさにこのWebドラマみたいなものをホームページに載せてたんですよ。 キャラクターとかを使って、
- 松本
- 先駆けですね。
- 山岸
- 今思うとそうなんですよね。
- 松本
- まだダイヤルアップ接続でしょう?
- 山岸
- そうです、ピーヒョロロ の時代ですね。テレホーダイ で23時過ぎた!始めるぞ!みたいな。
- 松本
- そうだ、そんなのあった。
- 山岸
- その時代なんですよ。その時に、このキャラクターが主人公のシリーズを作ってました。警察の話なんですけど、ずっと警察署の部屋の中だけの話で進むんですよ。出動がかかっても、そっちには行かなくて、部屋でただただ昨今の社会情勢だなんだって話をネチネチ話してるってだけの物語なんですけど。
- 松本
- 今で言うと、映画のスピンオフ深夜ドラマみたいな……。
- 山岸
- そういう感じです。夜中になんかくだらないことを話している感じの。
- 松本
- それは実写ですか?
- 山岸
- いや。それは本当にウェブドラマでただこういう絵が。
- 松本
- 静止画?
- 山岸
- ええ、キャラクターの絵が書いてあって、会話劇みたいにセリフをやり取りする感じの。
- 松本
- それも文字で出ているんですか。
- 山岸
- 今のLINEみたいに上から下までこう読んでいくってやつです。
- 松本
- ほ~、じゃあ、挿絵付きの小説みたいな感じだ。
- 山岸
- そうですね。今まで僕が作っていたゲームとか、身の回りの人にしか見てもらえなかったものがインターネットを通して初めて知らない人に見てもらえるようになった。僕は中学生の頃からパソコン通信への憧れが半端なくて。
- 松本
- あ~、パソコン通信ありましたね~。そういう映画もありましたし。
- 山岸
- 専門学校の時に、もう自分でできる環境になったらすぐに始めて。だからパソコン通信もしばらくやってましたね。そこから本格的にインターネットが始まって、ホームページを作ってたら、それを見た人から「実はインターネットで人を集めて、映画を作るって企画を考えているんですけど、山岸さん参加してみませんか?興味ありますか?」みたいなメールがポーンと来たんですよ。
- 松本
- 知らない人?
- 山岸
- 知らない人ですね。当時ホームページを持っている人間ってそんなにいなかったし。
- 松本
- そうでしょうね。
- 山岸
- 多分手当たり次第に送ってたんじゃないかなーって。
- 松本
- ちなみにその頃って、うちの宇田川美樹が、劇団としては珍しくホームページがあるからって6番シードに来た頃ですよ。
- 山岸
- へ~!その当時から6番シードのホームページがあったんですか。
- 松本
- 元主宰か元メンバーか忘れましたけど、多少そういうのは出来たので。小劇場の名もなき劇団がホームページなんて持てない作ってない時代で、そこそこ大手じゃないと持っていない。検索して一番上にあった、って言ってました。
- 山岸
- なるほど、劇団って検索に入れたら。
- 松本
- それで6番シードを選んだんですって。
- 山岸
- お~!
- 松本
- って、いうような時代です。
- 山岸
- 凄いな~。宇田川さんがってのがまた面白いですね。
成り行きで決まった監督業
- 松本
- ホームページをやっていて、お誘いのメールがあって。
- 山岸
- その時は確か「2000年映画を作ろう」っていうプロジェクト名というかウェブサイトの主宰の方でした。結局映画って人が集まらないと作れないじゃないですか。その方の構想としては、横浜支部、東京支部、名古屋支部、大阪支部みたいに各地方都市に支部を作って、そこでネット上で各支部ごとに情報交換しながら映画を作るって事をやりたいんです、って。ヤマケンさんは横浜周辺で、1つチームをまとめてくれないかって話になって、「いや僕、映画のこと何も知らないですけど大丈夫ですか?」「監督は別の人でやりたい人がいたらその人にやって貰えば良いし、取り敢えずまとめるリーダーだけやってもらえますか?」という流れになりまして。その時に取り敢えず付けた名前が、プロジェクトヤマケンなんです。
- 松本
- あ~、だから今でも名前を外して欲しいって言ってるんだ。
- 山岸
- 俺は外して欲しい(笑)。
- 松本
- 20周年なのに、未だに言ってる(笑)。
- 山岸
- その時は「プロジェクトヤマケン(仮)」ってなってたんですけど……
- 松本
- たまたま横浜支部のリーダーになっただけなんですね。
- 山岸
- そう、たまたまリーダーになっただけなんです。それで誰か別の人が やるんだったら、その時にプロジェクトヤマケンを変えればいいし、みたいな感じで始めたんですよ。そこでまずメンバーを集めて……横浜支部なのに結局横浜の人誰もいなくって、埼玉の方が多くって(笑)。じゃあ埼玉の方で一回集まろうってなって、埼玉で集まったんですよ。そしたら、高校生から不動産屋のおっさんまで、本当に映像関係が分かる人がほとんどいないような状態だったんです。
- 松本
- 何人くらい居たんですか?
- 山岸
- 10人くらいかな…… あの時、ゆえちゃんいたんだよね?
- ゆえ
- 最初の時は6人。
- 山岸
- 6人か。
- 松本
- ここに、初期のメンバーの人がいた!
- 山岸
- そう、1人いるんです(笑)。
- 松本
- インターネットで集まった6人が。
- 山岸
- 集まった……そうですね。人の集め方すら知らない時代じゃないですか。
- 松本
- 今ならね、まだなんとなく想像もつくんですけど。
- 山岸
- ええ。
- 松本
- 当時はまだ画期的レベルかもしれないですね。
- 山岸
- 全員がハンドルネーム なんで「ラーガーマンやっちゃんです」「トマトスープです」みたいな感じで。僕だけはその頃からヤマケンだったんですけど。そこで集まった中に結局誰も監督をやりたいって人はいなくって。
- 松本
- そうなんですか?普通、映画作りたい!って集まったら、みんな監督をやりたいって思いますよね。
- 山岸
- カメラをやりたい人は辛うじていて。
- 松本
- まあまあ分かります。
- 山岸
- 後はみんな、役者やりたいってのが多かったですね。
- 松本
- そっちか。
- 山岸
- じゃあ、どうする?ってなって。
- 松本
- じゃあ、ヤマケンやる?みたいな展開に?
- 山岸
- 僕も別に脚本を書くことには抵抗はなかったんです。
- 松本
- そうですよね。これまでにいろいろ聞いた中で、ストーリーを作ってきた歴史があるから。
- 山岸
- だから脚本はやると。でも、監督をやる人がいないので、結果的に僕がやるってなったんです。いろいろ脚本も書いて、確かあの時、絵コンテはある程度書いていて「さあ始めるぞ!」ってなった時に、僕が交通事故にあって。
- 松本
- あ、例の!
- 山岸
- 死にかけた大事故。
- 松本
- どういう事故だったんですか?
- 山岸
- まさに、映画をこれから始めようという決起集会というか……
- 松本
- ああ、形になって、いよいよ撮り出そうと、名も無き人たちが集まって。
- 山岸
- それまででも結構人の入れ替わりがあったんですよ。新しい人も入ったし、そこにはヤギシタさんもいたりして。
- 松本
- 今、Dプロジェクトのカメラマンさんをやられているヤギシタさん?
- 山岸
- そう。みんなで新宿で飲み会をして、じゃあ来週から始めましょう!って決起集会をして。
- 松本
- クランクインだ。
- 山岸
- クランクインです。その帰りに事故った。
プロジェクトヤマケン、始動できません!?
- 松本
- は~!自動車事故でしたっけ?
- 山岸
- 僕はバイクに乗ってました。別に飲酒運転では無くて。僕は当時川越に彼女がいて、飲み会の後に川越に行ったんです。彼女がバイクで迎えに来ていて、その彼女がいわゆるヤンキーだったんですよ。「 後ろに乗れ」って言われて「やだ、酔っ払ってるから」って言ったけど「うるさい。乗れ!」って言われて、無理やり乗せられてバイクで走ってたんです。そしたら、細い路地から車が一時停止無視で出てきて、ガッとぶつかった。彼女はバイクの前の方だったので車に接触せずに済んだんですが。
- 松本
- あ~、背後からドーンって来たんだ。
- 山岸
- 僕だけバイクと車に右足を完全に挟まれて、脛から先が千切れてしまった。
- 松本
- 今でも足にガードを付けてますよね。
- 山岸
- そうですね、今でも装具は付けています。そんな事故にあってしまって、それから1週間位意識不明みたいな状態。
- 松本
- かなり重症ですよね。
- 山岸
- 一時的には意識不明っぽくて、ちょっと自分の症状もよく覚えていないような状態。気がついたら集中治療室にいた、みたいな。
- 松本
- 目が覚めたら「ここは何処?私はだれ?」みたいな?
- 山岸
- そうそう、今思い返すとおぼろげに、手術中の記憶……緊急なんで、手術中も麻酔をかけられないんですよね。だからモルヒネみたいなのを打たれて意識がフワーってなっている中で手術が行われていて、工事現場みたいな「ヴイーン」って骨を切っている音がしていて。
- 松本
- うわ~。
- 山岸
- でも薬のせいか心は穏やかなんです。ハイになっている感じで、全然恐怖は感じていないんです。はっ!と気が付いた僕は、何が起きているかわからないし、自分が山岸謙太郎であると認識するまで時間がかかるんですよ。
- 松本
- 一時的な脳障害みたいな状態だ。
- 山岸
- そうです。それを思い出せたとしても、今まで何やってたとか、記憶の繋がりがバラバラなんですよね。
- 松本
- なんかドラマみたいな世界ですね。
- 山岸
- 本当にドラマみたいでしたね(笑)。ただ、当然映画のことも一時的に忘れてるんです。
- 松本
- 1週間意識不明みたいなことですもんね。
- 山岸
- はい。
- 松本
- だから、クランクイン間近の映画のスタッフたちは「山岸どこ行った!?」状態ですよね。
- 山岸
- そうです。
- 松本
- 「飛んだな……」って考えすら浮かびそう。
- 山岸
- あの時、ゆえちゃんはどうしたの?
- ゆえ
- その当時の大人の……それこそトマトスープさんとかが、山岸監督はそんな大変なことになったらしいって教えてくれて。
- 松本
- へぇ~、情報が入ったんだ。
- 山岸
- それはなんで分かったの?
- ゆえ
- なぜか情報が来たんですよね。
- 山岸
- あ!多分当時の彼女が伝えてくれたんだと思います。ヤンキーの子が。
- 松本
- 彼女、無事でよかったっすよね。
- 山岸
- 本当です。無事でよかった!……でも大変でした。彼女は自分の運転で事故が起こってしまったので、やっぱり精神的にダメージを……。
- 松本
- あらら。
- 山岸
- そんなこともあって大変だったのが……始まりです。
(つづく)